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YOASOBIの人気の秘密は日常に入り込み,常にチャレンジを続けること。マーケティングとサウンドプロデュースの戦略[CEDEC 2024]

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WBOYオリジナル
2024-08-26 16:08:20675ブラウズ
YOASOBIの人気の秘密は日常に入り込み,常にチャレンジを続けること。マーケティングとサウンドプロデュースの戦略[CEDEC 2024]
 2024年8月21日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2024」にて,ソニーミュージックエンタテインメントの屋代陽平氏と山本秀哉氏,そしてバンダイナムコスタジオの渡辺 量氏,コナミデジタルエンタテインメントの金子貴紀氏によるセッション「YOASOBIのマーケティングとサウンドプロデュース」が行われた。

 本セッションは,近年大きな人気を得ているユニット「YOASOBI」のレーベル/マネジメントスタッフを務める屋代氏と山本氏が,彼らの音楽制作の起点や手法,ミュージックビデオ制作,グローバルでの活動といった,多岐にわたるマーケティングやサウンドプロデュースのテーマを解説し,渡辺氏と金子氏が都度質問を投げかける形で実施された。

 今回テーマとなるYOASOBIは,コンポーザーのAyase氏,ボーカルのikura氏による「小説を音楽にするユニット」だ。屋代氏が2017年に立ち上げた小説投稿サイト「monogatary.com」の企画の一環として発足したプロジェクトで,デビュー曲の「夜に駆ける」が日本史上初のストリーミング10億回を達成するなど,数多くの実績を残す人気コンテンツとなっている。

YOASOBIの人気の秘密は日常に入り込み,常にチャレンジを続けること。マーケティングとサウンドプロデュースの戦略[CEDEC 2024]

 まず話題の中心となったのは,SNSでのマーケティング手法についてだ。YOASOBIは,X(旧Twitter)をはじめ,InstagramやTikTokといった多数のSNSにおいて,本人とスタッフが活発に情報の発信を行っている。その中には楽曲やイベントなどの告知はもちろん,コンテンツ制作の舞台裏やバズりそうな日常,アニメのリアルタイム実況なども含まれている。こういった活動は,YOASIBIが“日常に入り込む”形の,親しみやすいアーティストを目指しているからだという。

 そういった運用をするうえで意識しているのは,ファン全体に広く向けたメッセージではなく,特定の誰かに刺さるような感情を乗せた一言を添えることだ。そのパターンを多く用意しているため,必然的に投稿数も多くなっているとのこと。また,時折ネット上で盛り上がってる題材(いわゆるネットミームなど)にあえて突っ込んでいき,キャッチーさを演出することもあるそうだ。

 続いての話題は「物語を膨らませる音楽」というコンテンツのブランディングについて。
 YOASOBIのこれまでの楽曲は,すべて原作小説が用意されており,それをもとに楽曲が制作されている。さらに,アニメーションによるミュージックビデオも制作され,それらを行き来することで,それぞれのコンテンツをより楽しめる。
 原作小説の一部は書籍やドラマ,映画,絵本など多数のメディアミックスが行われており,音楽だけでは難しい展開が行えるのも,YOASOBIの大きな特徴となっている。

 屋代氏によると,音楽は基本的に受動的なコンテンツになってしまうが,YOASOBIの場合は,音楽と小説とミュージックビデオを行き来するという仕組みにすることで,能動的に楽しめるものになっているという。

 ほかにも,原作小説を用意するという関係上,小説に合わせて幅広いジャンルの楽曲を制作することになるという点を,マーケティングにも生かしているという内容が山本氏から語られた。

 それによると,初期のYOASOBIは,「夜に駆ける」が若者の間で流行した後,楽曲のテイストを変え,年齢層の拡大を図ったという。そうして幅広い人たちに聴かれるようになってから,Ayase氏の得意分野を強く出したり,さらに曲のジャンルを変えたりして,楽曲の幅を広げていったとのこと。


 その後,直木賞作家とのコラボで“小説を音楽にする”というコンセプトを強固にし,これらの取り組みにより地盤が固まったところで,近年は改めて10代にアプローチをかけたり,新たなニュアンスの歌にチャレンジしたりしているという。

 ここで渡辺氏から「なぜそんなにチャレンジを続けられるのか」と疑問が投げかけられた。これに対して屋代氏は,基本はさきほどのマーケティングの考えがありつつ,本質的には,コンポーザーであるAyase氏が「貪欲かつチャレンジングなアーティストであるから」だと答えた。

 さらに金子氏からは,幅広いジャンルの楽曲をディレクションしてきた2人が,ゲーム音楽というものにどのような印象をもっているのか,という質問がなされた。
 ここで屋代氏が,実は幼少のころからコンシューマ機向けタイトル,PCゲーム,同人タイトルと幅広くゲーム音楽に触れ続けていたことを明かす。
 その経験から,ゲーム音楽はクリエイターのチャレンジや熱意を強く感じられる領域だと考えているという。また,近年はポップス業界で楽曲にバックグラウンドを持たせる潮流があり,そういう意味ではゲーム音楽と距離が近づいているのではないかと語った。

 また,山本氏は楽曲のディレクションの際,世間的に今ベストだと考えられるものより,あくまでAyase氏とikura氏が何を考え,どういうことをしたいのかを尊重しているという。そういった部分が,ゲーム本編があり,そこに彩りを加えるゲーム音楽の制作と近しいところがあるのではないか,と考えを述べた。

 ここでセッションは質疑応答に切り替わり,会場からいくつかの質問がされた。

 まずはYOASOBIの“世間が求めるもの”に対する解像度が非常に高く感じられるが,その高さはどのように得ているのかという質問だ。

 これに対し屋代氏は,前提として「そこまで解像度が高いとは感じていないし,どこまでいっても分からないという諦めも持っている」としたうえで,あえて挙げるならば「SNSをずっと見ている」ことだという。
 近年はSNS側で勝手に他人の投稿がピックアップさせられるが,それにより思いもよらない意見を目にすることがあり,考え方の幅が広がっているのだという。

 続いては,アニメなど原作がある作品の楽曲を制作する際,その原作を元にせず,あえて新しくオリジナルの小説を書き下ろす意図についての質問だ。

 これに関しては,YOASOBIの面白さのひとつが“原作小説を生み出せる”ことにあるからだという。例えば,YOASOBIがエンディングテーマを担当している放送中のアニメ「〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン」では,楽曲制作にあたり,原作者である西尾維新氏に小説を書き下ろしてもらっている。これは原作の当然ファンにとっても嬉しいことであり,まさにYOASOBIの“面白さ”と言える展開だろう。


 また,海外でも大きな人気を得ていることに関する質問もあった。
 YOASOBIは既存曲の英語版をリリースしており,歌詞に日本語の空耳と思えるものがあるが,その効果はどのようなものなのか。そして,ライブでは日本語版を歌っているが,その使い分けはどうなっているのかというものだ。

 これに関して山本氏は,空耳は意図して入れているものではなく,日本語の歌詞のリズムを優先した結果,近い音の歌詞になっているに過ぎないとのこと。最終的には日本語の楽曲に帰結してほしいという考えから,日本語と英語の両方を聞いても違和感がない歌詞を模索したそうだ。


 また海外のライブで日本語版を歌っているのは,単純に英語で歌うのが難しいからということもあるが,現代社会においては外国語の楽曲を耳にする機会は多く,日本語でも自然と耳に入っていく人が多いからだという。先述の日本語の楽曲に帰結してほしいという考えもあり,日本語歌詞で歌うことを選択しているそうだ。

 ちなみに,YOASOBIが海外でも大きく人気を得た要因は「分からない」というのが本音だという。ただ,きっかけは不明なものの,英語版の動画を出したり,海外でのライブなど,ヒットしたことに対してのアクションは素早く行っており,それがさらに広がっていく理由になったのではないか,と述べられた

 質問の中には,今日話した戦略は,どのように準備したのかというものも。
 これについて屋代氏は「8割がた後付け」と正直な意見を述べる。先ほどまでの戦略を事前に組み立てて実践することは,まずないという。ただし,その大元になるような会話は日常的に行っており,どういう狙いを持つのか,逆に「これはやめておこう」などを話し合っているという。

 終盤には,YOASOBI発足のきっかけになった「小説を音楽にする」という発想が,どこから来たのかという,そもそものスタート地点に関する質問も飛び出した。

 これについては驚くべきことに,背水の陣から生まれた苦肉の策だったという。
 屋代氏は以前,「monogatary.com」の企画を考えるうえで,「小説を〇〇にする」というテーマに2年間挑戦し続け,すべて失敗に終わってしまったそうだ。そんな中「音楽の会社だし音楽にするのがいいだろう」と一周してきた結果が,YOASOBIの原型となるプロジェクトだったのだという。

 今回のセッションでは,誰もが知るアーティスト,YOASOBIが,どのようにして生まれ,どういった考えでここまで成長してきたのか,その一端を知ることができた。
 セッションの内容はゲーム開発という面で直接的な関係はないものの,ゲームと音楽は切っても切れない関係だ。もし音楽というアプローチからゲーム開発を考える際は,本セッションの内容を思い起こしてみると,何かアイデアが浮かんでくるかもしれない。

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